丸山 由起(まるやま よしき)さん

大阪府→那智勝浦町

和歌山県那智勝浦町出身。大阪府の大学に進学し、27歳のときにUターン。みくまの農業協同組合で働きつつ、休日は趣味のカメラで地元の風景や知人の結婚式、モデルさんなどを撮影。地域の事業者を応援するZINEの発行や、南紀の魅力を伝えるフォトブックの制作に携わるなど、カメラを通じて広がっていく人の輪に面白さを感じながら地元を拠点に幅広く活動している。

田舎に帰るなら写真の趣味もいいかな

地元の農業協同組合の職員として働く傍ら、フォトグラファーとしても活動する丸山さん。本人曰く「もともとフランクな性格」。その言葉通り、人を安心させる笑顔と気さくな人柄で、被写体の自然な表情や素顔をとらえる。

丸山さんが写真に興味を持ったのは、ちょうど大阪から那智勝浦町へのUターンを考えていたころ。アフリカのサバンナの写真を撮影するという、少々マニアックなゲームをきっかけにカメラの面白さを感じた。

「田舎に帰るなら風景も綺麗やろうから、そういう趣味もいいかなと思って始めた感じで。やってみたら意外と動物とかは全然撮らなくて、ストリートスナップとか人を撮ってることが多いです。風景も興味がないわけではないから夜に星を撮ったりすることはあるけど、7割くらいは人です」。

地元、那智山の滝巡りにて。たくさんの機材を抱えて山に登り、シチュエーションに合わせたレンズで撮影。

Uターンして初めて知った地元のこと

高校を卒業後、丸山さんが大阪に出たのはご自身の興味のある文化や、共通の関心がある仲間が集まりやすい環境に身を置きたいという理由からだった。そんな思いも10年近く暮らすあいだに満たされ、いつでも大阪に行けるような繋がりができたこともあり、丸山さんは那智勝浦町に帰ることに。すると、高校生のころまでは知らなかった地元の新たな側面が見えるようになったという。

「大学から外に出てると、大人の世界を知らないんですよ。世間的なことも全然。どんなふうに地元が回っていて、どんな業界があるかとかも実は全然知らないまま出て行ったんだなっていうのが帰ってきてから思った印象で。高校生が、町の役場がどんなことをしているかとか、どんな産業で和歌山が回っているのかとか全然知らんまま、なんとなく退屈やから出て行ったというのがあったので、知れば知るほど面白いと感じますね」。

みくまの農業協同組合の営業職担当という仕事柄、地域の方々と関わる機会も多くある。そんな中、地元に帰ってきたばかりのころは、大阪での仕事とはまた違った難しさを感じることもあった。

「大阪でも営業職をしていたんですけど、そのときは大阪市農協だったんですよ。都心だったのでいわゆるセールスマンぽい感じがオーソドックスなスタイルだったのが、地元でそんなに改まった敬語を使うと逆に警戒されるというか(笑)。わりとフランクにいかないと仲良くなれないのが最初は慣れなかったです。根っこはめっちゃフランクなんですけど、仕事モードのときに素を出すのは難しかったですね」。

カメラを通した輪の広がりは、飛び道具的で面白い

取材当日、ご自宅近くのカフェでインタビューに応えてくれるあいだにも、地元のお客さんから次々に声をかけられる丸山さん。老若男女を問わず、幅広い繋がりがあるのがうかがえる。そんな丸山さんにとって、写真は「飛び道具」であると話す。

「たとえば職業カメラマンやと、やっぱり撮影が収入になるような動き方をすることになるけど、僕は仕事で使わなくていいぶん手を繋ぎにいけるんですよね。ということは人脈も増えるし、僕を知ってくれる機会が増える。そうなったときに本業にも返ってくるんです。そういう輪の広がり方は飛び道具的で面白くて。せっかくやるなら積極的にやりきってしまうと面白いことがあるな、というのはすごく印象的でした」。

写真を通じて広がっていく人との繋がりの輪。「何するにしても、楽しそうな方が良いと思っていて」と話す丸山さんは、先日、ライターの方と一緒に熊野地方の知られざる魅力を伝えるフォトブックを制作。その際にクラウドファンディングにも挑戦した。

「地元のみんなに知らせないまま本を作ってても、自分よがりというかプロジェクトよがりで。それよりも『本が出るの楽しみにしてる』っていうふうに、周りの人に知ってもらうことに何より大事な部分があると思うので。その方が地域のためになるというか、良いムードが流れますよね。だからみんなに知ってもらうための取り組みは結構熱心にしていると思います」。

日本一の高さを誇る那智の滝。(写真提供:丸山由起さん)

(写真提供:丸山由起さん)

仕事やカメラを通じて繋がりや活躍の場を広げ、ますます勢いづいていく丸山さんに今後の意気込みについて尋ねた。

「仕事は仕事でしっかりしたいのと、僕の名前でではないですけど自分の写真の本が出るっていうのはすごいことだなと思っていて。それがちゃんとバイリンガルで書かれていて。今まで繋がれてない人と繋がれたり、もっと楽しいことがあると思うので、それは精いっぱい楽しもうかなと思っています。ビビらずに(笑)。前のめりで頑張ろうかなと思っています」。

カメラという飛び道具を使いながら、趣味も本業も充実させる丸山さん。何より、地域や周囲の人たちを大切にしようとする温かな人柄が、繋がりの輪をより太く、大きく広げているのだろう。