藤原 和香奈(ふじわら わかな)さん

東京都→和歌山市

千葉県出身。祖母が住んでいた和歌山の家に2020年10月に東京から移住。移住を機に自身の働き方を変えたいと2021年6月に開業。移住者のコミュニティづくりと、県外に住む人向けに和歌山の魅力を伝えるビジネスを始めた。現在は月に1度、和歌山市内にあるcotowaで移住者交流会を開いている。

美しい海と、自分のルーツがあった和歌山に移住

移住のきっかけは、「地方に移住したい」という旦那さんの言葉。

子供は第一希望の保育所に入れて楽しんでいて、藤原さんも育休を終えて会社に仕事復帰したところだった。小学校に上がるまではこのままの生活だと思っていた藤原さんはとても驚いたそう。しかし、地方移住について調べていくうちに賛成するように。もともと夫婦共に「自然の中で子どもを育てたい」という想いがあった。

そこで日本地図を広げて、移住先を家族で考え始めた。時期は2020年の1月。翌月には東京はコロナの第1波に見舞われた。東京からのアクセスがよく、自然がある地域が良いということで、移住先は埼玉県の山がきれいなエリアにしようとほぼ決めていたそう。

しかし、藤原さんの旦那さんは海が好きで、悩んだ末に海がない埼玉は諦め、移住先を白紙に戻した。そんな時、移住を後押ししてくれていた親から「和歌山に空き家になっている祖母の家があるが、一度見に行ってみないか?」と話があった。候補地として和歌山は考えてなかったが、まずは有楽町のふるさと回帰支援センターへ相談に行った。

センターが主催するオンライン移住セミナーに参加し、そこで知り合った和歌山の担当者がまちを案内してくれることになり、その翌週にホテルを予約してすぐに和歌山へ向かった。

築100年を超える祖母の古民家は、親戚の方がきちんと手入れしてくれていたおかげで、藤原さんが思ったより綺麗だったそう。そして、家の近くの和歌浦、片男波の海を見て気に入り、移住を決断した。その翌月には移住してきたという。

「マンションの退去日を決めていたのでリミットがありました。決断の連続の中、正直心が追いついてなかったです(笑)」と当時を振り返る。

片男波海岸へは、冬でも家族でよくお散歩へ行くそう。

地方移住を機に働き方を変えたい

藤原さんは移住前、東京・港区に住んでいた。港区は子育て支援などが手厚く、とても子育てしやすい環境だったが、忙しい日々の生活に違和感を感じていたそう。

「もっと子供としっかり関わりたい。料理や家事ももっと丁寧にやりたい、と思いながら、毎日急いで保育園に子供を預けに行き、会社にすっ飛んでいく日々。働くママさんはみんなやってるし、でもこんな生活がずっと続くの?と違和感は日に日に膨れてきて。ほんとはもっと大事にしたいことがあるのに、という気持ちがあったので、夫の『移住したい』という言葉がきっかけで、働き方についても考えるようになりました。自分の心が納得いくような働き方がしたい、地方移住を機に働き方を変えよう!という気持ちが芽生えました」。

「働き方を変える」という目標を掲げたものの、「自分のやりたいことってなんだろう」と改めて考えた藤原さん。

「思っていたのは、『地域みんなで子育てしたい』ということ。子育てを初めて経験して、『30分でいいから誰か抱っこしてほしい』としょっちゅう思ってました。これって私だけじゃなくて、子育て中や介護中の方など、同じように思っている方は多いと思うんです。東京のマンション生活では、物理的に近くにたくさん人がいるのになかなか支え合えない、自分の親兄弟や親しい人しか頼れないって、なんか寂しいなと。遠くの親戚より近くの他人を頼れる社会になるといいなと思っていました」。

そんな時に参加したのが、cotowaで開催された移住者交流会だった。自分でビジネスをしている参加者も多く、「自分も何かしたい」とより強く思うようになった。そして、『和歌山の起業の母』と呼ばれる岡さんに出会い、わかやま地域課題解決型起業支援補助金のことを知った。「私もやろうかな」と本格的に思うようになり、補助金に応募して見事通過。2021年6月に開業した。

藤原さんが行う事業は主に2つ。一つは、『移住者のコミュニティーづくり』。移住者交流会を主催することで、移住者の不安解消やつながりづくりを行う。移住当初は不安や寂しさを感じていた藤原さんだったが、cotowaやゲストハウスRICOに足を運ぶ中で得たいろんな人達との出会いによって、和歌山暮らしがぐんと楽しくなってきたそう。その経験を活かし、自身もそういう機会を作りたいと考えた。

現在月に1回程度cotowaで開催している移住者交流会では、幅広い世代の人が集まり、持ち寄ったごはんを食べながら話して交流している。藤原さんは、このコミュニティーが『何かしたい』と考えている人がやりたいことを始めるきっかけになればと考えている。

「誰に命令されたわけでもなく、タイミングも場所も自分で決める移住。移住者って自分の人生に能動的なんだと思うんです。だからこそ、移住者コミュニティーはもっと面白く発展していくだろうという期待もあります」。

藤原さん主催の移住者交流会の様子。写真は藤原さん提供。

もう一つは、県外の人向けに和歌山の魅力を伝える『情報発信事業』。藤原さんが東京にいた際に和歌山の情報がアンテナに引っ掛からなかったことをもったいなく感じたため、力を入れていきたいと思ったのだそう。情報発信は自身のYouTubeチャンネルで行っている。

和歌山の魅力

和歌山の魅力を発信していきたいという藤原さんに、和歌山のどんなところに魅力を感じているのか尋ねた。

「海も山も両方あり、自然が近いところがまず魅力ですよね。あと食べ物が美味しい!雑賀崎の漁港で漁師さんから直接お魚を買えた時は感動しました。夫が魚を捌けるので、朝からお刺身定食を楽しませてもらってます」と和歌山暮らしを楽しんでいる様子を話してくれた。

「また、和歌浦を散歩していると随所に歴史を感じるスポットに出会えます。歩いていけるところに東照宮、天満宮、不老橋などたくさんの見所があり、昔の暮らしや、ご先祖さまにも想いを馳せるようになりました。私の祖母は今の家で女手ひとつで子ども5人を育ててきて、その苦労話をご近所さんや親戚から聞いて。おばあちゃんがんばってたんだ〜!って。自分のルーツが和歌山にあって、今となっては逆に和歌山に呼ばれたのかなって思います」。

古民家の縁側で、飼っているニワトリを見ながらお仕事している様子

古民家暮らしの様子についても尋ねた。

「東京のマンション暮らしと比べると大変なところもありますが、家族でDIYを楽しみながら暮らしています。ご近所付き合いもとても素敵で。私が祖母の孫だから余計に良くしてくださっているのかもしれないけど、ご飯に呼んでいただいたり、お裾分けをいただいたりしています。庭の雑草対策のために鶏を飼うことにしたのですが、ご近所さんも快く受け入れてくださって。今では毎日産みたての卵を娘がとり、その卵をご近所さんに配ったりしています」。

藤原さんの鶏が産んだ卵。お土産にいただいた。

和歌山での生活を羨ましくなるほどに楽しんでいる藤原さん。これからどんな風に和歌山の魅力をいろんな人に伝えていってくれるのか、楽しみでならない。