熊野古道を歩く外国人観光客が多く見られる山間のまち、田辺市中辺路町。大阪市内から移住し、自給自足の暮らしを実践しながら、コーヒーと美容室のお店「CABELO(カベロ)」を営む辰巳和則さん・奈美江さんを訪ねました。
山登りと温泉好きが高じて
東大阪市生まれの辰巳和則さん。大阪市内へと移り、休みのたびに奈良県吉野郡へ山登りに通っていた20歳の頃、いなか暮らしを考え始めます。そして22歳頃から農業研修へ通うなどして、農業の勉強を重ねてきました。
同じく大阪府出身の美容師である奈美江さんと、2003年に結婚。2人揃ってワーキングホリデーへと旅立ちます。向かった先はカナダ、アラスカ、オーストラリア。「寒い地域と温かい地域の両方に行っておけば、移住の参考になるかもしれないと思ったんですね」と和則さん。
帰国後はいよいよ移住先を探すことに。土地選びの基準は、山登りやカヌーが楽しみやすいこと、温泉が近くにあることなど。そして、和歌山県を選びました。「あえての和歌山だったんです。移住先の定番じゃない感じが、逆によかったんですよね(笑)」。和歌山県の第一印象は温和な人が多く、住みやすそう。自給自足の生活を視野に入れていた2人にとって、冬場でも葉物野菜が食べられる温暖な気候も大きなポイントでした。
仕事に左右されない暮らし
2008年、まずは和歌山県田辺市の本宮町へと居を移します。知り合いも仕事もない状態での移住でしたが、2人とも不安はあまりなかったそう。「自分の仕事と食べ物は自分で作る、がモットーで」と穏やかに話す和則さん。食べるものさえあれば生きているという強さが、まずは心の土台を支えました。
田畑を借りて自給自足の暮らしをはじめた2人は、2010年に飲食店と美容室を併設した「CABELO」をオープンします。自営業を選んだ理由について、「仕事に左右されて暮らす場所を変えることが嫌だったんです。性格的にも合っていましたし」と和則さん。その後、2人の子供に恵まれます。そして空き物件を勧められたことを機に、2013年に中辺路町へ。以来、コーヒーと美容室という現在のかたちへと落ち着きます。中辺路町は、外国人観光客も多く訪れる土地。取材にうかがった日も、外国人観光客が道を尋ねる場面がしばしば。ワーキングホリデーで培った英会話で柔軟に対応する和則さんの姿は、“まちの観光案内所”さながらの頼もしい雰囲気でした。
暮らしの延長線上にあるもの
無理をせず、身の丈を大切に。2人の真ん中にはいつも「暮らし」があるようです。「ご近所の方から、『美容師さんなら髪切ってほしい』と声をかけてもらったのが始まりで」と振り返る奈美江さん。移住するまでは、美容師として活躍の機会が再び訪れるとは思ってもいませんでした。今では3世代にわたるお客さんにも支えられています。娘さんがカットをする間、お母さんが辰巳さんの子どもを見る。そんな美容師とお客さんを越えた関係性がここにはあるそうです。
一方の和則さんはコーヒー1本に絞った理由を「僕はビールとコーヒーと水しか飲まないから」と、シンプルに話します。どうやらCABELOには、自分の暮らしにあるものを仕事にする姿勢が共通しているよう。豆の焙煎機に並んで置かれた調味料や食料品。美容室で扱うシャンプーも、辰巳一家が日頃使っているもの。気持ち多めに仕入れて、販売しているそう。いいものをおすそわけしてもらっているような、とても心地よい感覚だなと思います。
都会に暮らしていた頃、人が集中し過ぎることによる不便さも実感してきた和則さん。「暮らすには、田舎の方が便利だと思うんです」という言葉が印象的でした。物理的にスペースを広げたことが、そのまま暮らしのゆとりへと繋がっている。そんな2人から「暮らし」を教わったように思いました。
・屋号:CABELO
・所在地:和歌山県田辺市中辺路町近露909-6
・TEL:0739-65-0288
・Facebook:https://www.facebook.com/cabelohairmake/