朝見 剛彦 さん

兵庫県⇔田辺市

「経営者」でもあり「武道家」でもある朝見さんの
二地域居住

熊野の雄大な自然に惚れ込んだ武道家が田辺市近露に武道場を開設
伊丹市で建設会社を経営しつつ、田辺市で武道を通じた地域創生を目指す

【職業】
① 武道場長
② 経営者(建設会社)

【拠点】
① 田辺市(妻、こども二人の四人暮らし)
② 兵庫県伊丹市(一人暮らし)

【朝見さんの二地域居住ストーリー】
兵庫県伊丹市の建設会社を経営する一方、市内で沖縄空手道場を運営する朝見さんは、合宿で訪れた紀南地方の雄大かつ神聖な自然に惚れ込み、田辺市近露に武道場を開設。武道場の隣には居宅を構え、家族4人で暮らす。週3回は伊丹の道場で稽古があるため、早朝に和歌山を発ち、深夜に戻るという多忙な日々を送っている。

 

1.二地域居住のきっかけ

「すばらしい環境のもとで、自分の道場を持ちたい」という思い

私が道場長を務める兵庫県伊丹市の沖縄空手道場では、毎年こどもたちと夏合宿を開催し、和歌山県にもよく来ていました。ある時、こどもたちに「坐禅」を体験させてくれるところがないかと探していたところ、「普段は受け入れていないけれど、そういうことなら」と人伝えに体験させてもらえるお寺が見つかったのが紀南地域でした。

実際にこの地域を訪れてみると、熊野古道がすぐ近くを通り、自然環境も大変すばらしく、「自分の武道場を、このような場所に持ちたい」という思いが募っていきました。また、以前より「武道を軸に、何か世間の役に立ちたい」とも考えており、中小企業の業態転換を支援する国の事業再構築補助金制度を活用して、武道場開設を盛り込んだ事業計画を申請、採択されたことで、和歌山での拠点づくりがスタートしました。

二地域居住のきっかけについて語る朝見さん

2.拠点探し

神聖な場所に新しい道場を

武道場は神聖な場所ですので、「熊野古道の近く」、体を払い清めるという意味から「近くに川があること」との条件に合う場所を探しました。実際に探し始めると、義父の地元ということもあり、地域の方がたくさん協力してくれて、いろいろな場所や物件を紹介していただきました。今の拠点(田辺市近露)に辿り着いた時には、すぐに「ここだ!」と感じて決めてしまいました。

3.家族の理解

家族全員で楽しむ和歌山ライフ

妻は伊丹市で日本の伝統文化を海外に発信する会社を切り盛りしています。伝統文化といえば、当地の熊野エリアは大変歴史のある地域ですし、熊野古道を参詣する訪日外国人客も多く、事業拠点としては最適な場所です。本人はこちらへの拠点移動も検討しています。こどもたちに関しては、学校や友達関係などで苦労はあったと思います。ただ、こちらの学校の先生は、月並みな表現ですが、「親身になって」指導・教育をしてくれます。自宅までわざわざ来てくれて、我々両親を交えて、本人を指導してくれるほどです。近所に同級生がいますので、夏休みには、毎日のように川や山に遊びに出かけていました。学校でも、プライベートでも、こちらの生活を満喫してくれているように思います。

4.地域における仕事や活動

外国人観光客等への武道体験、都会のこどもと地域のこどもの交流促進

完成した武道場では、地元のこどもたちや大人向けの武道教室を開いています。熊野古道に近いことから、日本人だけではなく外国人観光客に対しても、武道体験のアクティビティ(真剣を用いた剣術稽古等)を実施しています。伊丹市の道場のこどもたち(約60人)を招いての武道合宿もしており、夜の肝試し大会など都会ではなかなかできない行事も開催し、両方の道場のこども同士の交流も図っています。

田辺市の道場正面

田辺市の道場内

5.拠点間の移動の頻度や交通手段

朝早く出発し夜中に帰る移動を週に3回

田辺市での滞在がほとんどですが、週に3回、伊丹市の道場で稽古があるため、向うに戻ります。朝早く和歌山を出て伊丹市には午前11時ぐらいに到着します。そこから仕事をして、夕方から道場で稽古をします。午後10時に兵庫を出発し、夜中の1時に和歌山に帰ってくるという一日です。移動には車を利用し、休憩を挟みながら片道3時間30分程度かかっていましたが、最近は長距離の運転にも慣れ、和歌山に早く帰りたいという気持ちも後押しし、もう少し短い時間で帰れるようになりました。交通費は、毎月かなりかかります。高速道路料金、ガソリン代等含めて20万円ぐらいかかっていて、自分でも驚くほどです。

6.田辺市近露での暮らしの魅力

「熊野パワー」を感じる自然の癒しと親切な近隣住民とのお付き合い

私は都会育ちで田舎というものがなく、自然を身近に感じた暮らしをしたことがありませんが、ここでは「熊野パワー」を感じます。言葉で表現することは難しいですが、虫の声や鳥、動物、里山の匂いなど地域の動植物や自然から癒しを受けているイメージです。それから何と言っても、近所の方々がとても親切です。新鮮な野菜や魚などを分けてくれて、ほとんど毎晩一緒に、その方々と食卓を囲んでいます。私がいる日は、いつもお隣さんのこどもたちも一緒に食事をします。仕事の関係で、高級なお店に食べに行くことがあり、それはそれで美味しいですが、今は近所の人が釣ってきた魚が一番美味しいです。野菜や魚、平飼いの卵なども分けてもらって、本当に食が豊かです。この暮らしを経験してしまうと、早朝・深夜の移動も苦にならず、何とかして帰ってこようと思います。

田辺市に来てから秋田犬も飼い始めました

7.田辺市近露での暮らしのデメリット

デメリットを感じない田辺市近露の暮らし

この地域の人は良い人ばかりで、あまりデメリットが思い浮かびませんが、当初は買い物で困ることがありました。近所にあるスーパーが、午後6時に閉まります。「今日晩ご飯どうする?」と言い出すのが少し遅れると、お店に着いた時には既に閉店していて、それで何度か晩ご飯が食べられなかったことがあります。今は、近所の方がお裾分けしてくれるようになったり、近隣地域の品ぞろえ豊富な大手スーパーで食料品をまとめ買いしたり、肉や野菜は近所のスーパーで購入したりして生活しています。その他で言いますと、草刈りの回数が伊丹市にいる時と比べて多くなりました。田辺市では、年に10回くらい草刈りをしていて、伊丹市の5倍の頻度です。大変ですが、僕は草刈りが面白くて好きなので楽しんでいます。

8.これからの暮らし方・展望

地域創生につながる取り組みをここ田辺市で

職人から叩き上げで建設会社を始め、利益を出すために仕事を続けてきました。ただ、生活するためにお金を稼いで、生きていくということが、何かもったいないと思うようになりました。そこで、自分にできることで、誰かの役に立てることとなると、今のところ武道と仕事で培った大工技術だけですので、技術的なことを少しでも、こどもたちに教えていきたいと考えています。また、こどもたちの親御さんにも、私がそのような想いを持って活動しているよ、ということを伝えていき、仲間を増やしていきたいです。そんな取り組みが、地域創生にもつながると考えています。