海南市下津町出身で、2007年に家族を連れてUターンしてきました。現在は「From Farm(フロム・ファーム)」という、ドライフルーツなどの農産物加工品を製造・販売する店を開いています。「みかん援農」という援農プロジェクトも主催し、農業を手伝う若い人達の受け入れ体制を整えることに力を注いでいます。
Uターンして考えた農業の可能性
和歌山県内の高等専門学校を卒業後、塗料メーカーに就職し、愛知県の工場で勤務していました。長男ということもあり、農業をしていた家をいつかは継ぐ気でいたのですが、急な父親の病気により帰郷し就農。それから7年ほど、専業農家としてスプレーマム(キク科)などの栽培をしていました。
和歌山県は県下八つの単独JAで構成されていますが、スプレーマム部会(JAの組合員でつくる農産物の種類別組織)は、県内のJA統一の部会であったため、県内各地の農家やJA職員がいて、他の野菜や果物の栽培などさまざまな話が聞けたため、大谷さんも興味を持っていろいろな物を作り始めました。「自分のやりたいこと、できることは何だろうと考えていて。県外に出ていたので、農業をただするのではなく、もっと他に何か出来るだろうという可能性を感じていました」と振り返ります。
2014年ごろからは県内の農産物にこだわって加工品づくりを始めました。展示会に出展し、徐々に取引先や卸先が出来てくると、農産物の加工・販売に専念できるようになりました。
販売は店舗やインターネットで
2016年5月には倉庫を改装して、ショップ「From Farm」兼カフェをオープン。ショップで販売する加工品はドライフルーツやグラノーラ、山椒塩など。引退した山椒農家に譲ってもらった中古の乾燥機を使って、「和歌山県にたくさんあるフルーツを、面白いと思いながらドライにし始めたのが最初でした」と大谷さんは目を輝かせます。
お客さまは地元の人はもちろん、SNSを通じて知った人が大阪や奈良、京都などから訪れます。そして全国のさまざまな販売店で販売。グローサリーショップやホテルの売店、コーヒーショップやワイン専門店、山登りの携帯食としてアウトドア専門店、ゲストハウスのギフト販売用など販売先は多岐に渡ります。他に直接インターネット販売もしています。
地域の内と外をつなぐ「援農」
大谷さんは、農業に興味のある若者らが地域の農業を手伝う「援農」にも力を入れています。「みかん援農」は援農をしたい若者らを募集し、援農の期間中に、若者らが生活する環境を整え、ミカン農家のところで円滑に農作業が出来るようにサポートするプロジェクトです。「地元に貢献したいと思っていますが、援農に携わるようになり、農家が困っていること、求めていることは後継者不足、人材不足であることに気付きました」と話します。
年々、口コミやリピートで人が集まり、農家も喜んでいるそう。受入にあたっては今後も宿泊所の整備などハード面の強化が必要ではありますが、地域の農家がその点でも率先して力を発揮してくれているそうです。
援農を体験すると、農業のこともまちのことも自然と分かるので、移住したいと言ってくれる人も増えてきているそうです。農家にとっても、若い人との接し方が分かって意識改革になり、他の農家からも「手伝ってほしい」という声が出てきて、地域の内外で交流する好循環が生まれています。「援農は、外から人が入ってくる可能性になります。(援農に)来てくれた子に喜んでもらうのが一番。いかにサポートできるかを考えています」と大谷さん。
「地域のポテンシャルを育てる」
大谷さんによると和歌山県にはまだまだ未知数のポテンシャルがあるとのこと。それなのに若者が都会へ出ていくのは、人がいないということが「面白くない」につながるからだと残念がります。「だからこそ、地域の魅力を見出して育て、人が集まるエリアにしていく必要があると思います。数年後、たくさんの人が集まり、面白いコミュニティがたくさんあるエリアになれば」と熱く話してくれました。
第1次産業に携わる人が減っていること。地方に住む人が減っていること。これらの大きな課題に真っ向から取り組む大谷さんの、いきいきとした表情が素敵で印象的でした。