滋賀県出身の山田奈緒子さんは、鹿児島県の口永良部島での暮らしを経験し、2021年に那智勝浦町の太田地区へ移住。現在はフリーランスでWebサイト制作に携わりながら、パートナーと猫3匹と一緒に穏やかに暮らしている。夏場の楽しみは、仕事の合間に目の前の冷たい川に飛び込み思い切り息抜きをすること。山田さんは、もともと和歌山への移住は全く考えていなかったという。なぜ南の島から太田への移住を決めたのか、その理由とエピソードを伺った。
コロナ禍で海外渡航を諦めた年、周りの人の勧めで辿り着いたのは那智勝浦町の太田地区だった
紀伊勝浦駅から車で約20分の場所に位置する、太田地区の小匠(こだくみ)集落。澄んだ青緑色が美しい小匠川沿いに佇む民家から、人懐こい笑顔で出迎えてくださったのはWebサイト制作を生業としている山田奈緒子さん。
山田さんは和歌山に移住する前、東京、神奈川、鹿児島の口永良部島での暮らしを経験した。島暮らしの最中、「せっかくなら動けるうちに海外へ行きたい。」と飛行機を予約。しかし、コロナ禍を迎えたことで海外渡航は断念せざるを得なくなり、地元の滋賀へと戻ることにした。和歌山へ移住する最初のきっかけとなったのは、滋賀で生活していたある日のこと。友達から「和歌山いいよ。」と勧められたのだ。和歌山は学生時代に熊野古道を歩いたことがある程度で、ほとんど知らない土地だったという。
「『人も気候もあたたかいよ』とか『和歌山はパンダがのびのびしてるよ』とか(笑)。なぜか立て続けに和歌山を勧められたんです。まぁせっかく時間あるし、実際に和歌山をぐるっと回ってみたら、紀南の雰囲気がすごく心地良かったんですよね。ちょうどその頃、自治体の方から移住についてお話を聞けるオンラインのイベントがあったので参加しました。そこでいろいろな町が紹介されて、全然知らなかった那智勝浦町がなんか好きだなぁと思ったんです。」
その後、移住を視野に入れて和歌山県内のさまざまな町に短期滞在した。那智勝浦町では、オンラインイベントで知り合った人たちとリアルで再会し、そこから人の輪がどんどん広がったという。引越し先を検討した際は、地元の方々に「太田地区はいいよ。」と勧められた。実際に足を運んだ山田さんは、太田の自然の豊かさに心を動かされた。家屋の目の前を流れる澄んだ川。生命力溢れる山々。そんな自然豊かな環境で暮らす、気さくで親切な人々。自然が大好きな山田さんにとって、太田の第一印象は『あー、もうここ最高!』のひとことに尽きた。空き家の貸し出しのタイミングにも恵まれ、あっという間に小匠集落に引っ越してしまったという。
東京から鹿児島の離島まで、さまざまな土地での暮らしを経験してきた彼女が思う、この土地ならではの特徴は何だろうか。
「那智勝浦の方々は全体的にゆったりしている方が多い。その中でも太田の小匠集落の皆さんはとにかく柔らかいんです。例えば年齢とか、お仕事、職種、収入、いろいろ違っても結構フラットに喋ってくださるんですよね。『こうじゃなきゃいけない』っていうのがすごく少ない気がする。『あー、都会からきた人なんやね』くらいの距離感で接してもらえるのがすごくありがたいです!」
小匠集落の温かい人々との出会いと、自然と共存する暮らしでの気づき
山田さん曰く、小匠集落はとにかく温かい人たちが多い。引越し作業をしていると、わざわざ車から降りて「あんたここに住むんか。」「何しとんの〜?」と声をかけてくる。噂を聞きつけて「こっちに来られるんですか?」と嬉しそうに訪ねてくる人もいて、みんなが率先して話しかけにきてくれるという。
「数軒隣に住むおじいちゃんに『なおちゃん!いきいきクラブ(※)来い来い!』と誘われて行ってみたら、『みんなの名前わからんやろ』ってペンと紙を貸してくれて、地域の方々を紹介してくださったんです。最初はその名前を書いたメモを見ながら皆さんとお話しました。皆さん気さくに話してくださるので、すごく居心地が良かったんです。」(※いきいきクラブ:月に一度開催される小匠集落の体操教室)
いきいきクラブは、ラジオ体操をしたりお茶を飲みながら雑談をしたりと、地域の人たちと密にコミュニケーションが取れる場になっている。コロナ禍でなかなか交流の機会が無かった山田さんに、「ちょっとでもみんなと話せたら楽しいだろう。」という地元の人の優しい心遣いが溢れていた。
生活面について山田さんに尋ねたところ、車で15分程の場所に日用品などの買い出しができる最寄りのスーパーがあるという。遠く感じる方もいるかもしれないが、山田さんにとっては不便だと感じる距離ではなく、普段の生活で困ることは特にないそうだ。一方で、自然に囲まれた暮らしをするからこそ新たに気がついたことも。
「こっちに引っ越してきてから、自分たちの生活と環境が直に繋がってるんだなって実感します。近くの川は、夏になると大勢の方が見に来るくらいすごく綺麗なんですけど、昨年合成洗剤の泡が流れてきたんです。この泡が全然消えなくて。出どころもわからないからどうしようもなかったんですよね。そういうのを見てから自分の生活排水も意識するようになりました。例えば自然由来の洗剤を選べば、それを分解してくれる生物がいる。シャンプーや石鹸も、自然に還れるようなものを選びたいなって思います。普通に生活していく中で、人間も動物も自然も暮らしやすい環境にするために何かできたらと思うんですよね。」
自然と共存する太田の暮らしは、街中の生活ではなかなか気がつかない環境問題にも気づかせてくれる。「人も自然も普通に営みを続けて、それが双方に還元される環境になったら、お互いに心地良いですよね。」と微笑む山田さんから、自然と寄り添う太田の暮らし方が伝わってきた。
パソコン1台の仕事で、ちょうど良いライフワークバランスを実現していく
コロナ禍前は海外渡航を計画していた山田さん。国内外を問わずどんな地域でもできる仕事を探す中で、パソコンひとつで完結するWebサイト制作に興味を持ち、独学で学び始めた。1年前から本格的に始動したWebサイト制作の仕事は、立ち上げ期の真っ最中。この地域で依頼されるお仕事はどれくらいあるのか尋ねてみた。
「実はこっちでWebが必要な人って限られているんですよね。経営が成り立っているお店って基本的には口コミで回っているし、いろんな情報が出回っているので、需要はそうそう無いんです。特に今の時代は、簡単にサイトが作れるツールもあるので、自分で作られる方もいらっしゃって……。なので『ここで仕事が無いなら、あるところを探そう!』という感じで、ネットを使ってクライアントさんと出会ったり、お仕事をご紹介いただいたりすることがほとんどです。フリーランスとお客さんを繋ぐマッチングサービスなんかも利用してます。」
パソコン一台の仕事は、日本全国のクライアントと取引ができて、場所を選ばずに収入を得られることがとても大きなメリットだ。しかし山田さん曰く、地域で募集されている仕事も、いろんな人との繋がりを得られるので、収入だけではない大きな魅力があるそうだ。今は地域を越えてお仕事をされている山田さんだが、「いつか太田に自分のスキルを還元できたらいいなと思ってるので、まずは今の仕事の基盤をもうちょっと整えたいな。」と目標を語ってくれた。
そんな山田さんには、今後挑戦してみたいライフスタイルがあるという。
「理想は週に3対4くらいの割合で『仕事』と『地域』で生きることをしていきたいなって。1日の中でも仕事をする時間だけじゃなくて、この土地を楽しむ時間を作りたいと思ってます。身体を動かして食べ物を取るとかも良いですね。ここではそういう仕事と暮らしのバランスが調整できそうだから、これからがすっごい楽しみなんです!!」
終始「太田は良いですよ!」と満面の笑みで勧めてくれた山田さん。常に自然体で語ってくれる彼女の話を聞いていると、太田は地元の人たちとの距離感やワークライフバランスの“ちょうどいい”を叶えられる場所だということが伝わってきた。穏やかで温かな人々が暮らす太田で、ぜひ自分らしいライフスタイルを確立してみてはいかがだろうか。
公式サイト:Di-na Di-na