
―「散歩に出かけるように釣りがしたい」と、大阪府から和歌山県に転職・移住した「なましいたけ.com」さん(ニックネーム、以降「なましいたけさん」)。海沿いの住まいに暮らしながら、ふらっと釣りに出かける「理想的なフィッシングライフ」を送る。都市部から地方への「転職を伴う移住」の実際、今の暮らしについてなましいたけさんにお話を伺った―
「ちょっと釣りに行ってきます」
これは、Youtubeチャンネル「なましいたけ.com」の動画のワンシーン。動画を撮影したのはなましいたけさんで、釣行の様子を動画として月に何度か投稿している。県内外の釣り場を案内する動画や、アオリイカのエギング(ルアーを使ったイカ釣りのこと)、釣ったイカやアジをさばいて料理を作る動画もあり、釣りに行く時間のとれない視聴者に「癒し」を提供している。「動画編集は結構大変で、和歌山に移住してからは、編集よりも釣りを楽しみたいという気持ちが強くなってしまい、投稿ペースは格段に落ちています」と笑うなましいたけさん。
和歌山県由良(ゆら)町に移住したのは約1年前。車で5分ほどの釣り場に、ふらっと散歩に行く感覚で釣りに出かける。「『釣りに行きたいな』と思ったら出かけていき、お腹が減ってきたら、自宅に戻ってご飯を食べる。昼寝を少ししてから、夕方にも釣りに行く。今が理想的な暮らしじゃないかなと思っています」
40歳を前に下した大きな決断
なましいたけさんが移住した由良町は、和歌山県中部に位置し、造船所や海上自衛隊の由良基地分遣隊が置かれる港町、極早生みかん「ゆら早生」などの栽培が盛んな農業の町、白い石灰岩が海洋に張り出した「白崎海洋公園」を有する景勝地でもある。大阪からのアクセスも良く、磯釣り、堤防釣り、砂浜釣り、船釣りなど多彩な釣り場があり、黒潮の恵みを受けて、魚種も豊富なことから、釣り好きが多く集まる。
京都市生まれのなましいたけさんだが、社会人になってからの13年間は大阪府堺市に住んでいた。学生時代から夢中になっていた釣りへの探求心は高まり続け、釣りブログ「ヒラマサとアオリイカを求めて」を開設した。関西を中心に、なましいたけさんが実際に訪れた良い釣り場をGoogleマップ上で紹介する「釣り場マップ」は、300万回以上のアクセスを記録した人気記事となった。
「大阪に住んでいる頃から、由良町に限らず、和歌山には週に3回は来ていました。仕事が終わると、その日の晩に和歌山に来て、車中泊。早朝から釣りをして、急いで戻り、出勤というような日も何度もありました」。そのような生活を繰り返す中で、「もっと手軽に釣りがしたい。友達とちょっとカラオケに行くような感じで、釣りに出かけたいと思うようになり、40歳という人生の一区切りを前に、どうせなら、『自分の好きな所で、好きなことをしたい』という思いが強くなっていきました」と、その当時の心境を話すなましいたけさん。また、一緒に住んでいる保護猫「ジジ」を、のびのびした環境に住まわせてあげたいという動機も手伝って、2022年頃から和歌山県への移住を考え始めた。
空き家バンクで家探し
和歌山県内での住まい探しを始めたなましいたけさんは、釣り仲間から「『空き家バンク』というものがある」と紹介してもらい、早速検索し、めぼしい物件に問い合わせた。実際に、由良町の移住担当者(ワンストップパーソン)に案内してもらい、5件ほどの物件を内見したなましいたけさんだが、希望する条件に合わず、成約には至らなかった。
そんな時、その担当者から「今日登録されたばかりの物件があります」と紹介され、後日案内してもらったのが、現在の住まいである。「空き家バンクで良い物件に巡り合うかどうかは、”運”だったりします。良い物件は、登録されるとすぐに成約する場合が多いので」と話すなましいたけさん。「値段も希望の範囲内でしたし、改修の必要のない居住スペースがあり、住みながら、徐々にリフォームしていける物件だったことが、決め手になりました」と、物件決定理由をなましいたけさんは明かしてくれた。「雨漏りしている場所や、長年使われていなかった2階部分など、大工だった父親と一緒に、徐々に手を入れていきたいと思います」
地方への転職活動
なましいたけさんは物件探しとともに、転職活動も行っていた。大阪で勤めていた会社と同業種・同職種への転職活動を始め、知人の紹介で、近隣にある御坊(ごぼう)市の会社に勤めることとなった。「転職活動自体は初めてでしたが、私自身は、性格的に『なんとかなるかな』と思っていました。ただ、一般的に言って、私たちのような会社員が、都市部から地方部へ転職するケースにおいて、まずは職種の少なさに驚かされますし、待遇面での妥協も必要となり、正直難しいなという印象です」と語るなましいたけさん。一方で、「私の場合は、年間100回以上、釣りで大阪と和歌山を往復する生活をしていたので、今ではその分の交通費がかからなくなり、また、住宅費も減らすことができました。結果として、収入は減りましたが、支出も減ったので、想定よりは暮らしぶりは楽な方かなと思っています」と話された。
『ほどよい田舎』由良町での暮らし
「職場のある御坊市には車で15分程度で行くことができます。朝は7時45分に自宅を出れば十分。終業後、帰宅しても18時すぎ。朝マズメだけでなく、帰宅後も、近くの海辺で釣りを楽しむことができます」と話すなましいたけさん。以前に比べて、”釣り”に対する向き合い方も変化したと言う。「大阪から時間をかけて、和歌山の海に行く場合、『今日は釣りするぞ!』と、意気込んで行きます。仮に天気が悪くても、それなりの釣果を求めて頑張る訳です。それが、今は、『ふらっと散歩するような感覚』で釣りに行けます。釣れなくても、次の日に行けばいいんです。雨ならそもそも行きません。無理もしない。我慢もしない。とってもストレスフリーな釣りスタイルで、これが私にとっては理想的なんです」
なましいたけさんは、由良町での暮らしにも満足している様子で、「由良町って、私から見れば『ほどよい田舎』なんです。近くの御坊市まで行けば、何でも買うことができます。それでいて、町内は騒がしくなく、落ち着いていて。住んでいる方々は皆おおらかで、話し方もおだやか。時間がゆっくり流れているような感覚です」
週末には県内の釣りイベントも楽しむ。なましいたけさんが投稿している動画の中に、県内で開催された釣りイベントに参加している様子を映したものがある。釣果を競う釣り大会の後、海辺の芝生にテントを張って、夜はバーベキュー大会。釣り仲間とお酒を飲みながら、大好きな釣りについて語らう時間。そのシーンになましいたけさんは「この時間がずっと続いてほしい」とテロップを入れている。
移住を検討されている方へ
「実際に、暮らしてみないとわからないことが多くあります。買い物ができる場所は近所にあるのか。潮風で洗濯物に影響はないのかとか。たくさんあります。なので、もし『ここに住みたい!』という明確な候補地があるのなら、少しの期間でも暮らしてみる、それが無理なら、エリア内のホテルなどに2、3日宿泊することをおすすめします」と話すなましいたけさん。そして、転職を伴う移住を検討している方に対しては、「移住や転職には不安がつきものです。それでも移住したい、転職したいと考えるのは、新しい環境、新たな何かを求めて、楽しみたいという気持ちがあるからですよね。それは、『目的』と言えるかもしれません。その目的を達成するための移住であることを忘れずに、最後まで初志貫徹してほしいです」とアドバイスをくれた。
― なましいたけさんが由良町で好きな季節は「春」だという。冬は海からの向かい風が強く激しいが、春になると、海へ抜ける穏やかな風に変わる。そして、春はアオリイカの季節でもある。優しい風がそよぐ中、ふらりと散歩をするように釣りを楽しむ人がいる。由良町はそんな街だ ―
なましいたけさんYouTubeチャンネル「【田舎で釣り暮らし】なましいたけ.com⭐︎Fishing in countryside Japan」
https://www.youtube.com/@NAMASHIITAKEfishing
なましいたけさんの釣りブログ「ヒラマサとアオリイカを求めて」
https://namashiitake.com/#google_vignette
なましいたけさんのInstagram
https://www.instagram.com/fishingnamashiitake/