黒岩 正和(くろいわ まさかず)さん

京都府→海南市

和歌山市生まれ、四人家族。2019年に海南市へ移住し、現在は海南市観光協会の広報担当として働きながら、自らカメラマンとして会社の経営も行う。離島や海外での撮影がライフワーク。海南市は和歌山県北西部に位置する人口5万の小都市で、ミカン、ビワなどを始めとする農産物のほか、紀州漆器の生産地としても知られる。

肩肘を張らない場所–海南へ

黒岩さん一家の移住のきっかけは、二人目の子供ができたことだった。黒岩さんの実家がある和歌山に里帰りした奥さんから、こちらでそのまま子育てがしたいという連絡が来たことから話が動き出したという。

「いきなり家族で住んでいた家に1人で住むことになって。両親もいるのでいつか帰りたいとは思ってたんですけど、こんなに早くなるとは思いませんでしたね(笑)」。

当時京都で写真事務所を経営していた黒岩さんは、移住に向けて和歌山市近辺で仕事を探しはじめた。その時に見つかったのが地域おこし協力隊の海南市観光協会の広報業務だった。無事採用されて移住した海南市を、黒岩さんは「肩肘張らずに来れる場所」と表現する。

「僕も奥さんも田舎に暮らしたいというような覚悟を決めていたタイプではないので、そういう意味では海南って覚悟を決めずにふらっと来れるくらいの場所なのかな、と。なんていうんでしょうね、あまり肩肘張らずに来れる場所やったのが海南やったんかなあ、って思ってます」。

写真右下の島は「中島」といい、海南市の「亀池」のなかにある。1968年(昭和43年)に双青閣が移築された(写真提供:黒岩正和さん)

その土地の記録をフィルムに

当時人気のタレント、猿岩石に憧れた学生時代。大学初年度に決行したアジアへの放浪旅が、黒岩さんがカメラマンになるきっかけとなった。中国からベトナムへの旅。トラブルに遭遇しながらも数ヶ月間の旅路を通して、海外の一風変わった人々に夢中になった。

山岳少数民族の集落にて(写真提供:黒岩正和さん)

在学中は海外を放浪しながら写真を撮り続け、卒業後、京都でカメラマンのアシスタントとして働き始めた。その後フリーのカメラマンとなり、写真事務所を設立。海南市への移住後は本社を海南に移し、観光協会の仕事と並行してカメラマンとしての仕事を続けている。

ライフワークは海外、離島での撮影。特に、すでに350島ほど訪れたという離島ではその土地の祭りをフィルムに記録している。二回、三回と続けて訪れることで地元に入り込み、より良い写真を撮る。そんな関わり方を続けるなか、撮影した祭りがなくなってしまうことも珍しくなかった。

「かれこれ15年くらい島の祭りを取り続けてるんですけど、やっぱりいま少子化でなくなっていく祭りも多い。途中から記録用に残そうみたいな、使命感のようなものが随分強くなってきています」。

ある島の祭り(写真提供:黒岩正和さん)

人間と自然のせめぎ合いが見える土地

ひと月の四分の一は県外に出かけるという黒岩さん。様々な風景を見てきて感じる和歌山の良いところは、のどかな山岳部の風景と瀬戸内の穏やかな海の両方が身近にあることだという。

「山を切り拓いてミカンをつくっているので、人間と自然のせめぎ合いみたいなのがあって。そこからすぐに海も見えるんですよ」。

海南市はそうした和歌山県の中でも、海と山に程よく近く、ちょっとした空き時間にどちらにでも遊びに行ける便利な土地の一つ。仕事上の不安は少しあったが、離島や海外での撮影については、関西空港が近いことから特に問題ないという。

また、家族での移住において懸念事項の一つだった子育ても、海南ではストレスがない。

「僕自身はどこでも住めるんですけど、奥さんや子供、家族がいるんで。やっぱり家族単位の移住になると、小学校の転校とかがあるので、子供を育てるのに向いているかどうかとか考えることがあると思うんですけど、それに関しては海南はあまり考えなくていいというか。保育園の数も多いですし、良いところです」。

切り拓かれた山に育つミカンの木と海に人間と自然のせめぎ合いを感じる(写真提供:黒岩正和さん)

海南市にて(写真提供:黒岩正和さん)

移住は気軽に試して

肩肘を張らずに海南にやってきたと話す黒岩さん。移住に興味がある人には、気軽に一度試してほしいという。

「海南市や和歌山市に関していうと、二拠点生活で気軽に少し暮らしてみてから判断して決めてもいいと思います。アクセスや生活水準等はいいと思うので」。

特に子育てを考えている家庭には、環境の良さは注目してほしいポイントの一つ。

「僕も京都で住んでましたけど、和歌山に来てから、子供に道で歩いてて『危ない!』とか怒る回数はかなり少なくなりました。子育てはしやすい環境やなと思いますね」。

移住経験者は全国に多くいるが、そのきっかけも生活のスタイルも当然ながら人それぞれ。海南市に住みながら軽いフットワークで飛び回る黒岩さんの話は、そのことを改めて教えてくれた。

 

 

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