伊藤智寿さん

大阪府→海南市

「旅する大工」と呼ばれるほど全国各地を飛び回る伊藤智寿さん。2018年5月に海南市・冷水浦の空き家を購入すると、「Re□ SHIMIZU-URA PROJECT」をリリースします。今回は伊藤さんを通じて冷水浦に関わり始めたデザイナーの田中悠介さん、大工見習いの杉本昂太さんを交えてのインタビューとなりました。

「おもしろい」を考え直す


全国各地の施工現場に仮住まいを作り、完成させては次の現場へ。伊藤さんが「旅する大工」と呼ばれる由縁は、そのスタイルにあります。2015年に法人化を果たした伊藤さんは、やがて疑問を感じるようになります。「大阪にはおもしろい人も、おもしろいことも、めちゃくちゃある。でも多すぎる情報量に埋もれて、感度が錆びつつある。自分が飽和状態だなって」。そして2017年より新天地探しに出ます。候補地は、奈良県と和歌山県でした。「京阪神に比べると、メディア掲載が少ない。その分、手つかずのおもしろさを発掘・開拓できるんじゃないか」。中でも“更地感”がありつつ、京阪神との行き来もしやすい海南市に絞りました。

新しい家のかたち


「家、買えるんだ」。海南市を訪れた伊藤さんは、まず驚きました。そして2017年5月には冷水浦の物件を購入。以前から親交があり、仕事の信頼も厚い仲間に電話を入れます。「家買っちゃったんだけど、どうしましょう?」と。

電話を受けた「designと」の田中悠介さん、そして「PERSIMMON HILLS architects」の2人、建築リサーチを担当する友渕貴之さん。冷水浦へと駆けつけた5人で話し合い、「Re□ SHIMIZU-URA PROJECT」が生まれました。月々の家賃が浮いた分、物件の利活用について、仲間たちと相談ができるようになったのです。

プロジェクトのネーミングについて、田中さんはこう説明します。「まちづくりって本来、完成やゴールがないものですよね。このプロジェクト自体も、可能性を込めたプロジェクトにしたくて、“Re□”というプロジェクト名にしたんです」。


購入した一軒家をリノベーションし始めた伊藤さんは、集落に点在する空き家に気づきます。そして、住民の方から家を譲り受けることも。ここで、1軒の民家再生から始まった「Re□ SHIMIZU-URA PROJECT」は、空き家を通したエリアブランディングへと視野が広がります。

「この集落の空気感自体が、これからの観光資源なんだろうな」「表札を掲げる感覚で、それぞれの家にロゴを作ってみよう。集落全体をホテルに、それぞれの空き家を客室に見立ててみよう」。伊藤さんは目を輝かせて、話します。「このワクワク感は、大阪で味わえなかったもの。プロジェクト自体が新しい“家の作り方”のような気がしています」。

「定住しない」という暮らし方

大工として数多くの建築を手がけてきた伊藤さんですが、「自分自身は、家に縛られるのがニガテ(笑)」なのだとか。大阪から和歌山へ移り住んだ現在も、施工現場へ寝泊まりすることが珍しくありません。

一方で冷水浦の人々と積極的に話し、ときに和歌山県内のキーパーソンと夜遅くまで話し合う姿も。その姿を見ていると「“地域に関わって暮らすこと”と“毎日家へ帰ること”は必ずしも一致しないのかもしれない」と思います。「Re□ SHIMIZU-URA PROJECT」は、関わる一人ひとりが、「そもそも家って何なんだろう」と、自身の暮らしを見つめなおせる場なのかもしれません。「住まい方の選択肢が広がったらいいな」。そう話す伊藤さんのこれからと、それとともに変わっていくであろう冷水浦の様子に、今からとてもワクワクします。