辻浦しのぶさん

千葉県→高野町

大阪府生まれ、千葉県育ち。東洋鍼灸専門学校を経て、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。治療院勤務のかたわら、斎藤鳳観氏に師事。2015年春、高野山に「さらか はりマッサージ室」を開院。

「住もっかな」のひとことから高野山での生活が始まった

弘法大師が山上に開いた密教都市、高野山。標高約800mに広がる盆地には、117の寺院が点在する。この歴史ある聖地に、2015年3月、「さらか はりマッサージ室」を開いた辻浦さんは、千葉からの移住者。寺社めぐりが大好きで、高野山を初めて訪れたのは5年前だった。「京都、奈良、滋賀……。関西でもいろんな場所をめぐりました。高野山は山上に町が広がっている景色が衝撃で。人が情熱を絶やさず歴史を紡いでいる。そんな空気感にも心惹かれて」

以降、年に数回は訪問。顔なじみになったゲストハウスでつぶやいた、「住もっかな」のひと言で事態は急転。2014年春から、ゲストハウスでアルバイトをしながらの高野山暮らしが始まった。「完全移住は勇気がいる」と、試験的移住を行っていたが、資格を活かして始めた鍼灸の往診が評判に。山内は施術者不足で、「本格的にやってみない?」という常連の僧侶さんのあと押し、さらに移住者起業補助金制度も手伝って、思いきって開業を決めた。

「私が専門とする東洋医学に基づく経絡治療は、局所の痛みでも、全身を診て調整する。大きな宇宙の中で人間が生かされている、そんな包括的な考え方を基本とする密教にも通じる。だから、ここで暮らすのはいいだろうなって」観光客も多い高野山だが、辻浦さんが施術を行うのは地域の方が中心。敬意を抱く町で、「少しでも役に立てれば」と、ささやかな活動を続ける。

ひとりで営む「さらか はり マッサージ室」は、完全予約制。もぐさを使った温灸や鍼治療だけでなく、指圧やオイルマッサージの施術、韓国の伝統的民間療法「よもぎ蒸し」も行う。

和歌山のココがおすすめ!

■おいしい食材と水
高野山周辺の紀北だけでも産直所がたくさんあって、とにかく新鮮な食材が豊富。水も驚くほどおいしい!
■歴史を身近に感じる場所
1200年の歴史がある高野山もそうですが、その土地の人々が一つのものを伝え、残そうという意志に感動する。
■冬の高野山
雪が舞う高野山はほんとうにきれい。冬は観光客の方も少なく、ひっそり。静寂の聖地を感じられる特別な季節。

『TURNS Vol.15-2016 冬-』文:村田恵里佳 写真:照井壮平